2012年4月20日金曜日

いろいろ4


『子どもの発熱について』

                    北原こどもクリニック

                          北原文徳

『子どもの発熱について』

Q1)子どもは、なぜ熱が出やすいのですか?

子どもはよく熱を出します 。しかも、夜遅くだったり、土日の週末だったり、家族旅行に出かける前の日だったりします。それは何故かと言いますと、母親ゆずりの免疫が切れる生後6カ月ごろ〜6歳ぐらいまでの子どもは、自分で作った「免疫」がまだ十分にないので、しょっちゅう「カゼ」をひく訳で、そのたびに、熱が出てしまうんですね。

一度「熱」が出るごとに、一つ免疫ができて、こうして子どもたちは小学校へ入る前に、一通りの病気にかかって、小学生以上になると、あまり熱を出さなくなります。

子どもの発熱の原因で一番多いのは、カゼや咽頭炎、気管支炎といった、ウイルスや細菌による感染症です。

●風邪のウイルスや細菌などの「病原体」 が、子どもの喉へ侵入します。そうすると、ちょうど「パトロール中のお巡りさん」のような感じの「マクロファージ」 という局所免疫担当細胞が、病原体を捕まえます。コイツは怪しいヤツ!と判断した「マクロファージ」は、IL-1β,TNFα,IFNγ といった「サイトカイン」と呼ばれる発熱物質を放出して、警戒警報を発信するのです。

この警報を察知した、脳の「体温中枢」 は、子どもの体温を 39℃〜40℃の「セットポイント」 まで上げるよう指令を出します。この温度まで上がると、体内に侵入したウイルスや細菌の増殖速度がにぶるとともに、これらの病原体をやっつけてくれる好中球やリンパ球といった「白血球」 の活動が高まるので、何かと都合がいいのです。
「熱が出る」 ということは、体の中に熱を発生させなければならない訳で、体内に熱を貯めこむために、血管を収縮させて皮膚からの無駄な熱の放散を抑えます。このため、手足の血の巡りは悪くなって、手足が冷たくなり、顔色は蒼白くなるのです。

熱を作り出す臓器は「筋肉」 です。熱の出始めには「悪寒・戦慄」 と言って、ブルブル震えて寒気がしますよね。
これは、筋肉が震えて、一生懸命からだの中に熱を発生させているのです。


にきび十代のにきびにきびに直面している

こうして、39℃〜40℃の「セットポイント」まで上昇すると、今度は、それ以上体温が上がらないように 「体温中枢」はサーモスタットのスイッチを入れ替えます。そうすると、皮膚の血管が今度は拡張して血流がまし、手足は「ポッポ」と熱くなって、顔色は赤くなります。汗も出てきて皮膚からの熱放散が進み、これ以上体温が上昇するのを防ぐのです。

●こういった仕組みが人間の体にはできているので、脳細胞が障害を受ける可能性がある、42℃以上に熱が上がることはまずありません。唯一の例外は、子どもを駐車場の車の中に放置して、母親がパチンコに興じている間に、子どもは「熱射病」 を起こして死んでしまうという場合です。エンジンをかけたままクーラーを効かせておけば大丈夫と思うかもしれませんが、軽自動車だと簡単にエンストしてしまうので、あとは「灼熱地獄」が待っているだけです。

幼い子どもの体温維持機構は簡単に破綻して、体温は42℃以上にどんどん上昇し、多臓器不全を起こして子どもは死んでしまいます。熱射病は、ほんと怖いですよ。エンジンをかけたまま子どもを車内に残して、その場を離れることだけは、絶対にやめてくださいね。

Q2)何度以上あれば「熱がある」と判断してよいのですか?

もちろん、年齢や個人差といった違いはありますが、だいたいの目安としては、37.5℃以上あれば、「熱がある」 と言ってよいと思います。予防接種でもそうですよね。それから、ひとつ注意していただきたいのは、最近 流行の「耳式体温計」。脇の下で測るのよりも少し高めに出る傾向があります。それから、きちんと鼓膜に向か っていないと正確に測れないし、耳垢が詰まっていても測れません。当院では電子体温計を脇の下で測ってもらっ ています。決して正確ではありませんが、それで十分です(^^)

Q3)高熱が続くと、脳が侵されて頭が「バカ」になるとよく言いますが、本当でしょうか?

決してそんなことはありません 。ご安心ください(^^;) 先ほど申しましたとおり、普通の感染症の場合、 42℃以上に熱が上がることはまずありませんので、「熱のせいで」脳がやられてしまうことはないのです。 それでも、やっぱり心配になってしまうのは、「細菌性髄膜炎」や「脳炎」、「急性脳症」といった、たとえ 命が助かったとしても、脳に大きな後遺症を残してしまう恐ろしい病気の可能性を、親としては考えてしまう からだと思います。


バック下げることができる痛みは、妊娠の症状である

もちろん、われわれ小児科医も、それらの病気の可能性を絶えず心配してはいます。ただ、これらの 脳神経を侵す重症の病気の場合には、子どもの症状が「高熱のみ」ということはまずありません。けいれん や嘔吐、意識障害、激しい頭痛といった症状が必ず伴います。それから、「細菌性髄膜炎」や「脳炎」は めったに見られない病気で、ぼくは開業して5年になりますが、自分で診たのは2例だけです。

Q4)高熱が出るほど、重症の病気なのですしょうか?

これも間違いです 。40℃を超える熱が出ると、夜中でも緊急で診てもらわないと大変なことになると、思って いるお父さん、おかあさんが多いですが、そんなことはありません 。突発性発疹や扁桃腺炎でも40℃を超える ことはよくあります。子どもの場合、熱の高さと病気の重さは全然関係がないのです。

40℃の熱があっても、目をキョロキョロさせて手足を活発に動かしていたり、真っ赤な顔でぎゃーぎゃー泣いて いるような赤ちゃんは、まず心配いりません。逆に、熱は37℃台でも、蒼白い顔でグッタリしていて、目もとろ んとして、ものの動きを目で追おうとしない時には、重い病気が隠れていることが多いです。

われわれ小児科医は、熱の高さよりも、子どもの全身症状に注意をはらいます。夜間、高熱を心配して電話があった 時には、必ず次の事柄を訊きます。
 
「遊ぶ元気はありますか?」
「水分は取れていますか? 食べられますか?」
「よく眠れますか?」
「解熱剤で少し熱が下がったら、元気を取り戻しましたか?」

この「4つの問い」に対して「3つ、いいえ」だったら、事態は深刻です。さらに、 「吐いたり、息が苦しそうだったり、咳がひどかったり、熱以外の症状はありませんか?」 という質問に対して「はい」と解答があった場合には、時間外でも、すぐ受診してもらっています。

Q5)では、夜間でも緊急で診てもらったほうがよい場合は、どんな時なのでしょうか?

40℃を超える発熱があっても、焦る必要はありません。先ほど述べた、子どもの「全身症状」をみて、大丈夫そうならば、翌朝まで自宅で様子を見てかまいません。でも、次の日の午前中には、必ず小児科を受診して下さいね。


3学期の耳鳴り

1)生後3カ月以下(または未満)の赤ちゃんが、38℃以上の熱を出している時には、腎盂腎炎や髄膜炎など、カゼ以外の原因で発熱していることが案外多いので要注意です。夜間でも遠慮せず、診てもらって下さい。

2)発熱以外に心配な症状が強い場合(例えば、嘔吐を繰り返していたり・初めてのけいれん・呼吸困難・ぐったり感 など)も、翌朝まで待たずに診てもらったほうがよいと思います。

3)それから、おかあさんが「この子、なにか様子が変!」と感じる時には、重い病気のことが多いです。母親の第六感は、ホントに当たります。父親のは、ぜんぜん当てになりませんが(^^;) ですから、お母さんが、いつもと子どもの様子がぜんぜん違って 「何か嫌な予感がする時」 は、夜間でも診てもらってよいと思います。

Q6)一番安全な解熱剤、使ってはいけない解熱剤について教えて下さい

解熱剤は絶対に使うな! という小児科医もいますが、ぼくは上手に使えばいいんじゃないかなって思っています。38.5℃以上になったら使うことが多いですが、元気があれば無理に熱を下げる必要はありません。また、平熱の36度まで一気に下げる必要はありません。子どもは熱に強いので、38℃くらいまで下がれば、ずいぶん元気が回復するし、食欲も出てきます。

ただ、解熱剤というのは「一時的に熱を下げる薬」であって、病気を治す薬ではありませんので誤解しないでください。
それから、インフルエンザ脳症の発症と関連があるとして、インフルエンザの時には使ってはいけない解熱剤があります。

それは、こちらです(パネル)

・アスピリン(バファリン)
・幼児用PL顆粒(サリチルアミド+アセトアミノフェン)
・メフェナム酸(ポンタール・シロップ)
・ジクロフェナクナトリウム(ボルタレン)

最近は、小児科ではインフルエンザ以外の発熱でも、これらの解熱剤は、あまり使わない傾向にあります。

使って安全な解熱剤は、アセトアミノフェンと、イブプロフェンです。

乳幼児では、アセトアミノフェンしか使いません。
商品名で言うと、
アンヒバ坐・アルピニー坐、カロナール細粒・シロップ、タイレノール、小児用バファリンです。

Q7)家庭でできる、発熱時の対処法を教えてください


熱の上がりはじめで、手足も冷たくブルブル震えて寒がっている時には、暖めてあげますが、30分もすれば熱は上がりきって、手足は熱くなり、顔色は赤く熱っぽくなります。そのあとになっても、厚着をさせて暖め続けると、かえって熱がこもってしまい、さらに熱が上がってしまう可能性があります。熱が上がりきったら、服を脱がせて、涼しい格好にして、子どもの皮膚から熱が放散しやすいようにしてあげて下さい。

汗をかいたら、お湯で絞ったタオルで、手早く体を拭いて下着を着替えます。体が清潔になるだけでなく、皮膚に付いた水分が蒸発するときに「気化熱」を奪って行くので、体温を1度くらい下げる効果もあるのです。

また、高熱の時には、氷を入れたビ� �ール袋をタオルに包んで、脇の下や腿の付け根など、動脈のとおっている部分にあてて5分〜10分程度、冷やすのも効果的です。ただし、冷やしすぎには注意してください。

熱のある時には、吐く息や皮膚から水分がどんどん失われていきますので、水分は欲しがるだけ十分に与えて下さい。

Q8)おでこに貼る「冷却シート」って、効果があるのでしょうか?

残念ながら、解熱効果は期待できません 。脇の下に貼るタイプのものでも、同様です。ただし、子どもが気持ちよさそうにしているなら、貼ってあげてもかまいませんが、嫌がるようなら無理に貼らないでください。

Q9)熱がある時の「おふろ」はどうしたらよいでしょう?

これは難しいですね。寒い冬と暑い夏とでは対応が違ってくるし、自宅のお風呂場や脱衣所の温度差も関係してきます。でも、最近の住宅は「高気密・高断熱」で、脱衣所も暖かいし、ユニットバスなら浴室も寒くはありませんので、ぼくは、38度以上なければ、お風呂は入ってもいいよ! と言っています。ただ、長湯をすると体力を消耗しますので、汗を流す程度にしておいた方がよいと思います。

(2003年 5/31記 10/19 一部改変)



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